海外旅行についての記事を一時中断して、昨今印象に残った美術展について備忘録代わりに記しておこうと思う。
川村記念美術館において開催されている「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」
今まで美術展にはよく足を運んでいたものの、もっぱら印象派などを中心とする西洋絵画が関心の的であり、抽象画には全く興味がなかった。それなのになぜかこの展示の広告に惹かれ、足を運んでみたところ見事に「刺さって」しまい、学芸員の方の解説を聞きたいがために再訪したのだ。
思えばきっかけは、先日「たまたま」観覧したアーティゾン美術館の 「Transformation 越境から生まれるアート」でザオ・ウーキーの絵画と出会ったからかもしれない。
本来は「写真と絵画」展を見るために訪れたのだけど、同時開催していたこの展示のメインビジュアルである「水に沈んだ都市」に一目惚れ状態・・・吸い込まれるように展示室へ入ったら、今まであまり鑑賞してこなかった分野だけど、妙に心に残る絵画たちに出会った。特にパウル・クレーとザオ・ウーキーが印象的で、今まで言わば食わず嫌い的な感じで向き合ってこなかった抽象絵画への印象が一変したのだ。
そんなこんなで、都心からやや離れた場所にある川村記念美術館へ行ってみた。
当日は生憎の雨だったけど、美しい庭園の散策は傘をさしながらでも十分に楽しめた。



展示は「色の形」「色彩と技法」「色から光へ」の3部構成。それ以外にも、常設展示(いつ行っても見れるのでしょうか?)の絵画たちが色ごとにテーマ分けされている。中でも「ロスコルーム」は圧倒的で、それはそれは深い漆赤の色の海の中を泳ぐというよりも沈み込んでもがいているような、それなのに苦しくなくて恍惚感に浸る、とても不思議な空間だった。朝一番に入館したこともあり、ほとんどの展示が独占状態。都心の美術館ではまずあり得ないこの贅沢さ。この美術館は早い時間に来ることをお勧めします!
本展示はカラーフィールドの作家9名の作品を展示しているのだが、初回観覧時に最も惹かれたのはジュールズ・オリツキーの展示部屋だった。チラシに採用されている作品「高み」の色合いがなんとも好みで、キャンバス一面に塗り込められたブルーグリーンの海の中を存分に「泳ぐ」この至高の一時!
この作品はマグカップとして販売されていたので迷わずに購入。後で気がついたのだけど、この作品の色合いと、ポーラ美術館に展示されているモネの「睡蓮」の色合いが酷似しているのだ。

左「高み」右「睡蓮」
画質悪くてわかりにくいですが、ほとんど同じような気がする・・・
モネの「睡蓮」は何作もあるけれど、私が今まで観た中ではポーラ美術館所蔵のものが一番好き。昨年Bunkamuraで開催された「ポーラ美術館展」においてあまりの美しさに目を奪われ、続いてポーラ美術館における「モネからリヒターへ」展において再会し、じっくりこの作品を観たけれど、本当に心に染みる作品だ。
自分の中の感性にスイッチが入るこの色。
今回この「高み」をチラシ用に選んでくれたおかげで、私はこの貴重な展示に巡り逢うことができた。
図録もこの通りセンスが良くて。
ティファニーブルーよりも彩度を抑えた大人の色。
昔Laura Ashleyの寝具やカーテン等に使われていた「ダックエッグ」という色にも似ている。
実はこの寝具今でも現役で使っているのだが、無意識のうちに自分が安らげる色なのかもしれない。
(図録のバックがダックエッグのデュべカバーなのですが照明が悪いせいで色がちゃんと出ないのです・・・)
美術展の図録やグッズの色、実物との乖離が残念なことがたまにあるけど、この図録、作品の色をかなり忠実に再現していると思う。


作品がどのような技法で描かれているかの解説もとても興味深かった。
“薄く溶いた絵具をカンヴァスに染み込ませるステイニング技法”は多くの作家によって用いられたが、この作業をするのって、かなり広い場所を必要とする気がする。
学芸員の方の解説を聞いていて意外だったのは、モーリス・ルイスはそれほど広くはない十畳ほどの自宅の一室で作業していたとか。部屋のあちこちが汚れそうで、自分だったらやらないだろうな。。
今回初めて美術館のギャラリートークに参加してみたけれど、作品の目の前で解説を聞くとより理解が深まるのでとてもいいですね〜 もっと今後も活用しようっと。



初回観覧時には圧倒的にオリツキー推し、次点ラリー・ブーンズといった感じだったのだけれど、再訪時にフリーデル・ズーバスの良さにも気づいてしまった。もう一つのチラシに採用されており、むしろこちらがメインビジュアルであると思われる「捕らわれたフェニックス」。まだあまり抽象画に慣れていなかった初回よりもとても強い印象を受ける。一見えいやっと一気に筆を運び完成させているように見えるけれど、実は緻密に計算し尽くした構図を下書きした上で描いているとか。そういう視点で見ると、この作品に限らず彼の作品の構図や色の配置は、偶然の産物ではなく極めてよく計算されバランスが取れたデザイン画のようだ。
他の作家の作品も、初回観覧時よりもより理解が深まりじっくり見入ってしまった。本当にこの展示の空間の中にいると、「色の海を泳ぐ」ような感覚にとらわれる。
初回訪問時の次の週にポーラ美術館「モネからリヒター」展に行ったですが、ある作品の前で思わず立ち止まる。あれ?最近これ見たよね・・・?


撮影可のモーリス・ルイスの作品。カラーフィールド展で展示されていた作品と似ている・・・けど別物でした。最近、日本の美術展も撮影可の作品が増えてきてはいるけれど、同じ作家の作品でも撮影可、不可の違いってなんなのでしょうね。
川村美術館の庭園は本当に美しくて癒されるので、展示を観たらすぐ帰らずに、外をじっくり散策するのがお勧め。(夏場は蚊がいるので虫除けスプレーしていった方が良い!)







カラーフィールドの作家たちはほとんどが戦争(第二次世界大戦)を経験している。戦争を乗り越え、何を描こう?となった時、もう従前のような風景とか、お花とか、そういう感じでもない。宗教はそれがホロコーストに繋がることもあったからやはり違う。そこでより人間の内面と向き合い表層世界の背後にある精神的なものを描く方向性へと向かった。
自分が今カラーフィールドに惹かれるのは、今のこのなんともやりきれない世相が影響しているのかもしれない。いつの時代になっても戦争を止めようとしない人間は正直クズだと思うし、とっとと滅びればいいのにとさえ思う。そんな厭世的な感情と向き合うしんどい日々の中で今アートとして見たいのはリアルな形があるものではないのだろうな。
「色」について俄然興味が湧いてきたので、これからもっと勉強しよう!
